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コラム
サブスク主義は市場を破壊する!?【ゲーム編①】
2023年3月19日(日曜日)

破竹の勢いで普及した定額サービス、いわゆる『サブスク(サブスクリプション)』ですが、少し陰りが見えてきました。今回は、『サブスク』どうなんだろねという話です。

先日、岡本吉起さん(元カプコンで、近年は『モンスト』の作者として知られる)が、ご自身のYouTubeチャンネルでゲームにおけるサブスクの懸念を話していたので拝見(9分10秒の動画、下に引用)。

岡本さんは、ドラマのサブスクなんかに比べてゲームは(現状は)合っていないとおっしゃるわけです。ご自身も言われているようにちょっと心配症だなと思うところはあるものの、「サブスク用ゲームは"サブスク向きの仕様"を考える必要がある」と提言されているのは、そのとおりだなと思います。

"サブスク向きのゲーム仕様"について考えることは、それほど難問というわけでもありませんし、ゲーム制作に関心がある人なら考えるの楽しいくらいですよね。

ただ、サブスクの利用者向けに「ゲーム体験やプレイ環境を最適化するには」みたいな話とは別に、ゲームに限らずサブスク系サービス全般に「考慮すべき点」があることを踏まえておく必要がありそうです。そこで、サブスク市場の"背景"について、考えていくことにします。

サブスク全般の問題とは?

ゲームに限らず映画・ドラマも同様ですが、サブスクというのは"敷地が無限にある"「モール商売」のようなものです。

モール商売というのはご存じのとおり、PARCOとかイオン(イオンモール)などのショッピングモールにおいて、人が集まる場所を靴屋や書店、飲食店などのテナントに提供するかわりにテナントの売上げから上前を撥ねるもの(名目上は「場所代」だとしても同じことです)。支払いの形態こそ異なるものの、場所を提供する(+ちょっと宣伝する)だけで運営側(プラットフォーマー)が儲かることから、サブスクと同じ種類のものと考えられます。

ただし、現実世界のモールでは敷地面積が一定です。テナントは限られた範囲の競争において自身の努力で売上げを向上できます。また、昔ながらの商店街もそうですが、同業他社を複数加入させないことで、本屋と本屋が売り上げを削り合わずに済むようになっている場合もあります。

例外もあります。わかりやすいのは"飲食店"で、和食屋と中華料理屋がひとつの商店街にあるのは普通のことです。ただ、同じものを毎日食べると飽きるので、和食屋と中華料理屋が近くにあることは悪いことではありません。「どのお店で食べるかを決める前に、その商店街へ足が向く」という経験をしたことがある人は少なくないと思われます。

しかし、ネットサービスのサブスクは(サーバー費用はかかるとはいえ)いくらでもテナント(コンテンツまたはその提供者)を迎え入れることができてしまいます。モールや商店街の例で言えば、ネットサービスのサブスクは「横浜中華街」のようなものと言えますが、横浜中華街だって敷地は有限です。

テナントが増えても、それに応じてユーザーが"落とすお金"が簡単に増えるわけではありません。仮にテナントが2倍に増えた場合、ユーザー数も2倍にしなければテナントの利益(運営側から分配される平均額)は減少します。プラットフォーマーとしては、コンテンツが増えれば増えるほど有利になるのでテナントをどんどん増やそうとしますが、テナント自身はありがたくありません。

逸早く急成長した映像作品のサブスクでは、この問題が露見し始めています。

具体的な支払いについては不明ですが、Amazon Primeにおける映像作品の配信は分配がかなり減少しているのか、テナントの流出が目立ちます。コンテンツがAmazonから消えても他社の配信サービスでは観られることはよくあるので、それぞれのテナント側がサブスク全般へのコンテンツ提供をやめたわけではなさそうです。「コンテンツが多すぎるAmazonで観せるのは損」ということが浮き彫りになってきていると考えられれます。

それでも「儲かるところへ移籍すればいい」というならまだいいのですが、映像作品に比べるとゲームはそう簡単ではありません。特に「ハードの制約」が足を引っ張ります。その垣根を超えるためのクラウドサービス(例えばGoogle Stadiaなど)もうまくいっているとは言い難い状況です。

なお映像作品は、一時のサブスク大流行のおかけでDVD&ブルーレイの円盤市場が著しく縮小してしまいましたから、サブスク以前に戻ることも困難です。ゲームのサブスクも、普及のタイミングを見誤ると既存市場を混乱させたり、破壊されてしまうおそれがあります(ただし破壊された方が良いとの考えもあるかもしれません)。

やがては自立の道へ?

ところで映像サブスクの場合は、提供者ごと、ディズニーやパラマウントなどに自立していく傾向があります。ゲームもやがては「スクエニサブスク」とか「カプコンサブスク」とかに独立していくかもしれません。ただし、それは任天堂やソニーなどの「大規模サブスク」の成功後になるでしょうし、それ以前に現状のゲーム市場だけが破壊されるのは避けてもらいたいものです。

なお、出版サブスクで自立の道を進んでいるカドカワは、他社とは異なる可能性を持っています。ゲームでのヒット作が多くないですけどね。もっともゲームのヒット作が増えたところで、対応ハードの問題があるので、それが自立の道を阻みます。「すでに任天堂やソニーなどのプラットフォーマーの支配下にある」というのは、ゲーム市場ならではの問題といえるでしょう。

では、ゲームのサブスクを成功させるためには、どうしたら良いのでしょうか? 考えるべきことは、サブスクは「共同体」であるということです。

(つづく)

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