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作品に学ぶ
いまこそレビュー・映画『博士の異常な愛情』
2023年3月12日(日曜日)

『博士の異常な愛情』、正しくは『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を・愛する・ようになったか』は1964年のイギリス映画です。監督は『2001年宇宙の旅』や『フルメタル・ジャケット』の監督でも知られるスタンリー・キューブリック。

米ソ冷戦のさなか、核攻撃命令が出され人類滅亡の危機が迫る恐怖をブラック・コメディとして描いた本作が「今、観るべき」と話題になっていたので、約20年前にDVDを買って以来となる二度目の視聴を行ないました。

なぜ「今」かといえば、昨年2月にロシアによるウクライナ侵攻があり、核戦争の危機が身近なものになってしまったからです。

ただし、本作はあくまでブラック・コメディとして描かれているので登場人物は"極端なキャラ"として表現されています。とはいえコメディとして描いたのはあくまでキューブリックによる映画版であり、本作はコメディではない原作があるため、登場人物の背景には妙なリアリティがあります。

今観直してみて、もっとも気になったのは核攻撃を命じる張本人であるリッパー将軍でした。

本作DVDの背面にある紹介文には「アメリカの戦略空軍基地司令官リッパー将軍が突然発狂、なんとソ連への水爆攻撃を命令する」と書かれています。しかし、いまやそれが「突然」でも「発狂」したわけでもないことがわかります。

というのもこのリッパー、単純なキ○ガイ野郎ではなく"陰謀論者"なんです。陰謀論者で国粋主義者。

以前なら「こんな奴いないでしょ」と思うところですが、実際にいたから今ウクライナはえらいことになっているわけです。核のスイッチを押すぞ押すぞと言いながら、"まだ"押してはいませんが。

昔なら陰謀論に染まるのは「ごく一部の頭のおかしい奴だけ」と思われていたので「突然発狂」したように見えたかもしれませんが、いまや国粋主義に陰謀論はセットでついてくるほどポピュラーなものであることが可視化されています。国粋主義は軍備増強のために利用されており、そのために現実味を無視して脅威論が語られるのはもはや日常ですからね。

もっとも本作で描かれる戦争の構図はかなり古いもので、現代のそれとはやはり違います。とはいえ現代になってそれが改善しているわけではなく、むしろ逆。さらにウクライナ危機で戦争を巡る世界の在り方は大きく変わるでしょうから、"ウクライナ後"に本作を観るとまた違った印象を受けるかもしれません。

ある意味そんな"過渡期"だからこそ、本作を観る意味があるとも言えます。はやくウクライナがなんとかなることを願いつつ、三度目の視聴を楽しみに待ちたいところです。そのとき「なんて荒唐無稽な」という感想を持てればいいのですが、さてさて、どうなりますやら。

なお手軽に観られる配信サービスがないか調べてみたところ、U-NEXTでは本作が見放題のラインナップに含まれているようです(2023年3月現在)。興味がある方はご覧になってみてください。

仲川正紀
誰得ドット絵芸人を名乗る野良編集者。にちよう企画班でも、文章を書いたりドット絵を描いたりしていますよ。
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