20世紀。ぼくが勤めていたのは、アスキーという出版社でした。ある日の会議の席で、当時の上司でPC誌『ログイン』の河野真太郎編集長は「みんな、メジャーとマイナーの違いはわかるか」と問いかけました。
ぼくら若手スタッフは思い思いに回答したけれど、それはどうでもいい。河野編集長は「良いものしか売れないのがマイナー、良くないものも売れるのがメジャー」と定義しました。
このとき例として挙げられたのはゲームの市場。SFC時代後期だった当時はコンシューマー（家庭用ゲーム）は大したことない作品もかなり売れ、メジャーと言えました。一方、PCゲームはごく一部の良作以外は大して売れない、マイナーな市場でした。
この話を聞いたとき、ぼくらはPC向けにツクールシリーズを提供する立場にあったので「おー」というよりは「うーん」という感じ。当時すでにSFC版RPGツクールの企画も動き始めていたけれど。
ゲームの場合、コンシューマーゲームは今でも大ヒット作の売り上げは突出します。ただ、小ヒット作となると、もはや当時のPCと現在のコンシューマーに大きな差はありません。メジャー／マイナーで分類すれば、コンシューマーゲームもすでにメジャーとは言えないでしょう。
プラットフォームとは別の軸として、ジャンルにもその時々のメジャー／マイナーがあります。
一時のRPGは間違いなくメジャーなジャンルだったけど、今や既知の人気シリーズ以外が「RPGだから」ということで広く注目されることはないでしょう。どれだけ売れる作品があっても、RPGというジャンルはもうマイナーです。
メジャーかマイナーかを"ジャッジ"することには大して意味はありません。ただ、"メジャー＝大したことがない作品も求められる世界"を見極め、関わることができれば、そこに転がっている"チャンス"に巡り合えるでしょう。とはいえ、生まれてすぐにメジャーになる世界なんてありませんから、誰かがマイナーな世界を地道に支えることに大きな意義があります。
「メジャーだから」とその世界に身を投げた人の中には、国内市場がダメになったら「次は海外だ」「今はスマホだ」「いやメタバースだ」とやっている人もいますが、前出の分類で言えば海外もスマホもメタバースも「メジャー」と呼ぶのは難しいことがわかります。市場の大きさや話題性を軸に、ヒットを期待するのは浅はかです。
メジャーは儲かるがマイナーは儲からない、ということではありません。良いものを作るか、売れるものを作るか、ということでもなく。「大したことない作品が求められること」を望むか、望まないか。
なんらかの表現者を志す人は、もし考えたことがないのなら自分なりの答えを持っておいた方がいいでしょう。そして、その答えは心に秘めておけば充分です。もしも誰かに「どっちがいいと思う？」と訊かれたときは「うーん」と答えておけばいいでしょう。
https://twitter.com/hiponama
https://www.facebook.com/msk.nakagawa
https://note.com/hpnm/
