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作品に学ぶ
映画を作る映画 劇場版「SHIROBAKO」
2023年6月18日(日曜日)

「映画を作ってみたいな」という気持ちを持つ人はたくさんいますが、意外と映画業界そのものではなくちょっと違う世界に行きますよね。ゲーム業界とか。

映画業界が避けられる理由のひとつとして「日本映画はダメ」という偏見があります。そうハッキリ悪く言う人は多くなくても、語られるのはハリウッド映画の話ばかり……と言われれば「思い当たるふし」がある人は少なくないのではないでしょうか。

ハリウッド映画に限りませんが、海外作品は「良いもの」(とされる作品)が選ばれて輸入されてきます。日本にいて、それを「海外では良いものばかり作られている。それにひきかえ日本は!」と感じてしまうのは、やや近視眼的だと言えるでしょう。

こういった誤解もあって、「日本映画は叩いて良い」とされる風潮があり、個々の作品をよく見ずに日本映画界全体を批判する様は「差別」とか「いじめ」と同じ構造になっています。正しくものを見られない人たちによってアニメやコミックの愛好者たちが「オタク」呼ばわりされてきたのと同じ「迫害」を再生産し続ける日本社会、なんとかならんものでしょうか。

と、いうわけで(?)今回はアニメ作品『劇場版「SHIROBAKO」』を取り上げます。この作品は2014年に放送されたTVアニメ『SHIROBAKO』の劇場版で、2020年2月に公開されました。

基本的にはアニメ制作会社のお話である本作『SHIROBAKO』では、制作・進行を務める主人公・宮森あおいを中心に物語が進みます。そして、TVアニメ版ではTVアニメを、劇場版では劇場版アニメを作る過程や事情が描かれました。

とはいえ劇場版ならではの制作(作業的な意味で)の内幕について語ることはあまりないのか、映画作りを志す人の琴線に触れるような描写はあまりありません。また、劇場版の背景と物語はTVアニメのストレートな続編となっており、前作からの「ファン向け」作品としての側面が強くなっているように見えます。

単独の作品として観るのが難しいことは、公開当時に「登場人物が若い女性に偏りすぎ」との批判が巻き起こったことからもわかります。前作からの流れを知っていれば、TVシリーズではアニメ業界の駆け出しだった主人公たち5人組が、本格的に活躍を始めてからの物語が今作だということがわかるのですが、知らないと「ただ、若い女だらけ」に見えてしまうのも無理はありません。

ただ、そういった誤解はさておいても、ファンから見ても今作は前作ほど楽しめなかったり、爽快感に欠ける想いを抱くことがあるかもしれません。その理由は本作が、前作よりも少し「成長」している側面があるからだと考えられます。

映画であることの「特別」

アニメに限らずドラマでも、TVシリーズがヒットすると映画に進出するのはよくあることですが、良い結果になることはあまり多くないように見受けられます。それでも「映画化」が続く理由のひとつとして、TVに関わる人々の間ではTVシリーズがいくらヒットしても一人前として認められず、「映画化してはじめて一人前」という考えが一部にあるからだと言われています。

ただ、やはり「お客さんが直接お金を払ったか」は評価の物差しとして重要ですから、そこに「一線」が引かれることは理解に難くありません。

本作の劇中でその製作過程が描かれる作品は、続編ではなくオリジナル作品なのですが、この「お客さんが直接お金を払ったか」は、続編かオリジナルかにかかわらず、劇場版作品製作を語るうえで欠かせない大きな違いです。TVと劇場の違いは、単純に「どこで見せるか」だけではなく、プロとしての製作者たちの意気込みにも関わってきます。

主人公が「制作・進行」を務めることもあって、前作にあたるTVシリーズではアニメ業界製作現場の「社会科見学」欲を満たしてくれると同時に、実在のモデルもいると言われる「個性豊かな人々」が描かれて好評を得ました。でも、これは「文化祭でアニメを作ろう」というアマチュアの世界の物語でも描けるエピソードが少なくありません。

対して、劇場版作品の製作が描かれる本作は、必然的に描かれる事象が「プロならでは」のものに偏ります。

アニメでも、ゲームでも、「作り手になりたい」という気持ちを持つ人はとても多いのですが、その実態は、自分が好む良い作品が生み出される場所にいたいという「憧れ」に過ぎないことが普通です。TVシリーズの『SHIROBAKO』はその憧れの気持ちを満たしてくれましたが、劇場版はそれほどでもなかった、と考えれば本作に欠けたものがなんであるか気付くことができそうです。

冒頭で触れたように日本映画が「下」に見られて総じて叩かれる理由も、似たようなことかもしれません。海を渡ってやって来た華やかな外国作品に比べて、身近な日本映画について、ぼくらは資金や権利を巡る「事情」を知りすぎています。一方で、子ども向けや若者向けの実写映画の秀作は多くありませんから、「憧れ」の対象にはなりにくいのは当たり前なのかもしれません。

本作はTVドラマのダメな映画化などとは違い、主人公たち5人の成長とあわせて「憧れ」の先にある世界を作品自体が身をもって表現しているとも言えます。もし、すでに視聴して「前作ほどおもしろくなかったな」と思ったとしても、そうした背景を踏まえてもう一度観ると、違った景色が見えてくるかもしれません。

(おしまい)

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